「わぁ〜きれいに咲いたね」
春の梶原邸
そこには沢山の花が咲いていた。
冬の間に譲が植えていた種が立派に咲いたのだ。
突然異世界へ来てしまって
落ち込んでいる望美を元気づけようと植えたものだったので
彼女の笑顔を見ると、今まできちんと手入れしてきたことが救われる。
今ではこっちにも大分慣れてきてはいたが
やはり不安が消える事はなく
むしろこんなに長くこちらにいたらこのまま帰れないのではないか
という新たな不安も出てくる。
それはやはり彼女も同じようで時々顔を曇らせているのが痛々しかった。
――――― これで少しでも先輩が元気になってくれるといいけど・・・
「譲君って、本当に花とか育てるの好きだよね」
「え?あ、はい。す、好きですよ」
ぼーっと望美の顔を見ていた譲は彼女の言葉に
パッと花壇へと視線を移す。
「やっぱり花があると心落ち着くね」
「先輩にそう言ってもらえると育てた甲斐があります」
譲のその言葉に望美は柔らかに微笑む。
花壇の前にしゃがみ込んでいる彼女の髪を風がなでる。
――――――俺にもっと力があればいいのに。
俺が星の一族だというならば彼女を助けられる力が欲しい。
異世界への不安からも、これから起こる戦いからも彼女を遠ざけて
この笑顔を守れるだけの力が自分にあれば
この美しい力強い花を守れるだけの力が
「先輩、知ってますか?」
譲は目の前にある花にそっと手を添える。
「育てる者にとって花はとても儚く見えるんです。
もちろん花はそんなに弱くはない。強く育っていきます。
けれど、育ててきた者にとっては何よりも儚く見えるんです。
本当は何者にも近づけさせたくない。という感じに」
「先輩、俺が今一番大切にしている花がどれだか分かりますか?」
譲の言葉に望美は少し首を傾げ手を広げる。
「ここの花、全部?」
その言葉に譲は苦笑する。
「・・・それも正解です。でも、俺はこの花全部、
いや、世界中の花全部を犠牲にしても守りたい花がある」
「・・・それはね、先輩。あなたです。
先輩は俺の花です。どんな者にも近づけさせたくない、儚い花なんですよ」
「譲君・・・」
彼女は、俺のその言葉に少し困った顔を見せた。
昔から時々見せる少し迷いのある笑顔
だから、彼女を困らせないように・・・
自分に暗示をかけるようにはっきりと音にする。
「分かってます。先輩は強い。俺なんかよりずっと・・・
誰よりも強くて綺麗で・・・守られる花じゃない、自分で輝き続ける花だ。
俺なんかが守るだなんて口にするのはおこがましい事だと分かってます」
「譲君、それは――――」
彼女は譲の言葉に緩く首を振る。
しかし、譲もまた彼女の声を遮りにっこりと微笑む。
「先輩は、先輩は優しいからきっと今の言葉を否定しようとしてくれるんでしょう?」
「・・・」
「ありがとうございます。でもこれだけは言わせてください。
俺は、先輩が自分で輝き続ける花でも、それでも俺に出来る事があれば
何が何でもしてあげたくなる。
先輩がおれの気持ちに答えたれないのは知っています。
それでも、俺は俺なりに先輩に尽くしたい。俺の花はあなただけだから
だから・・・これだけ、許してくれますか?
俺に出来ることがあったら、あなたの支えになりたいということを」
もし、このまま元の世界に帰れなくても
先輩が元気でいれれる環境を作ろう。
彼女が綺麗に咲き続けられる環境を作ることが
俺がこの世界に送られた意味だと思うから・・・・・
了