あたり一面が真っ白に染まった朝、望美は一人高館の庭へと降りた。
息を吐くと白く、喉の中に冷たい空気が流れてくる。
―――また、平泉の冬が来た―――
望美は冷えてきた体を抱きしめ、未だ雪を降らしている空を見上げる。
少し角度を変えると雪の白が銀色に見える。
『ずっと、あなたを愛しておりました』
この雪のような髪の青年は望美の意識が遠のく中
心から微笑み、愛しそうにその言葉を紡いだ。
望美はその事を思い出し唇を強く噛む。
泣かないと決めているのに目頭が熱くなる。
最初に会ったとき、知盛を重ねて幾度となく顔を歪ませていた望美に、そっと声をかけてくれた銀。
泰衡の命令に従っていた時もあったけれど、それでも最後に彼がくれた言葉は本物で・・・・暖かかった。
『これだけは覚えておいてください・・・私は
私はずっと、あなたを愛しておりました』
その言葉が今の望美をこの時空に導いている。
―――この時空では・・・まだ大丈夫―――
望美は自分の意志とは反対に流れてきた涙を乱暴に拭う。寒さでなのか体が震える。
泣いてなど・・・いられない・・・。
あの人はまだここにいるのだから
あの人が何故心を失ったのかまだ、分からない。
だけど今度は・・・・
もう二度と彼の心を手放したりしない
彼から心を奪うものを許さない
「神子様?」
望美が自分の決意と共に逆鱗を握りしめた時ふと後方から馴染みのある優しい声が聞こえた。
この雪のような髪と心を持った銀は望美が振り返ると布を持って立っていた。
望美はその姿を認めると慌てて涙の後が無いか確かめ、先ほどまでの気持ちを無理矢理胸の奥へと押し込んだ。
暗いところを見せてはいけない。迷ってはいけない。
あの人が愛してくれた自分はきっと前を向いていただろうから。
望美は冷たい空気をいっぱいに吸い込むと笑顔を作り銀の元へと駆け寄る。
そんな望美に銀は笑顔で持っていた布をそっとかける。
「おはようございます神子様、こんなに早く召し物も召されないでどうなさったのですか?」
「ううん、何でも・・・ないの」
銀は笑顔で即答する望美に一瞬疑問の色を見せたが、すぐに「さようですか」と笑顔を見せた。
―――今は迷わず前に進もう。この笑顔を失わないように
この雪のように優しく純粋な白い心を二度と・・・失わないように―――
了