「今夜はやけに星がざわつくな・・・」
大きな屋敷の中、一人の銀髪の男は窓に腕を預け空を見上げ呟く。
その言葉は独り言だったのだが、側に控えていた女房はそれに呼応したようにクスリと笑う。
「あなた様は本当に星を見る力がお有りのように見えますわね」
「どういう事だ?」
床を用意していた女房はいつもはあまり反応を示さない主の意外な反応に「まぁ」と声をあげ、用意を進めていた手を止める。
「何やら今、世の中では再度龍神の神子が現れたという話で持ちきりだそうで」
「龍神の神子?」
聞き覚えの在るような無いような言葉に男は眉を寄せる。
そんな様子を見て女房は「あぁ」と嘆きに似た声をもらした。
「そういえば、あなた様は以前龍神の神子が現れた時のことを覚えていらっしゃらないのでしたわね?」
「ああ」
悲しそうな女房の代わりにいつも通りの無表情で男は低く呟くだけだった。
龍神の神子か・・・そいつに会えば―――
俺が誰だか分かるのだろうか。という男の誰にあてる訳でもない問いは、突然吹いた風の音によって消された。
いつの間にか女房も床の用意を済ませて下がっている。
男の横には綺麗に手入れされた剣。以前の自分が大事にしていた物だと聞いた。
「平・・・・知盛」
自分の名前だと以前に教えられた名を呟く。
あまり実感が湧かない。
「龍神の・・・・・神子」
その女に会えば名に実感が湧くのだろうか。
そんな男の心の声に反応するかのように今まで雲に隠れていた月が姿を現す。
それと同時にざわめきの光を放っていた星は輝きを無くし、まるで男の声に味方するように月は暖かなやわらかい光で男の上に降り注ぐ。
――――――それならば、会ってみよう。
今のままでも不都合は無いが気分が悪い。
それに・・・・龍神の神子・・・・・
何か面白くなりそうだ・・・・・
そう心の中で呟くと月の光に抱かれた銀髪の男は小さく喉をならし、口の端を上げる。
まるで、以前の彼のように楽しみを求めるように―――