「ヒノエ君?入るよ?」
そういってヒノエの部屋のドアをボスボスとたたく。
しかし、返ってきたのはいつもの気障な言葉ではなく沈黙だった。
「ヒノエ君?いないの?入るよ?」
もう2、3回ノックしてカラリとドアを開ける。
そしてやはり部屋の中にはいつものヒノエの姿はなかった。
望美は首を傾げ、持っていた飲み物を机に置く。
「あれ?飲み物持ってきてって言ったのはヒノエ君なのに・・・・」
そう毒づきつつ、望美は窓が開いている事に気付き締めようと窓の方へと歩み寄る。
「もう、窓開けっ放し・・いくら熊野が安全だからって不用心すぎるよ・・って・・・わぁ!!」
窓の近くまで来た望美は窓枠の下あたりに気配を感じ驚きの声をもらす。
そこに居たのは気持ちよさそうに眠りこけているヒノエだった。
望美はドキドキと驚きに踊らせた心臓を沈め、ヒノエを起こさないように近づいてみる。
風にそよいでいる赤い髪、長い手足、そして今は見えていない瞳
望美はそっと横に座りヒノエの顔を眺めてみる。
まだ二十歳にもなっていない少年
初めてあったときから口説き口調で、
軽くてどこまで本気か分からない
だから最初は信用する事ができなかった。
でも、熊野のこと、仲間の事を真剣に考えている素敵な人だという事が分かってからとても惹かれた。
その優しさに、想いに、強さに・・・
そして、戦いが終わって・・・結婚式をあげた・・・・
若くて熊野水軍の頭領になったヒノエ。きっと苦労も耐えないのだろう。
時々凄く辛そうにしているのに、自分の前では平気なふりして笑っている。
熊野の人々を、私を、その笑顔で元気つけてくれる。
そこが愛しいのだけれど・・・・
「あんまり無理、しちゃだめだよ・・・・ヒノエ君・・・・・
少しは甘えたっていいんだよ?」
そっと頬に口づけをしながらそう呟く。
すると・・・・
「望美からそんな事言われたら、無茶なんてできねぇって」
今まで閉じていた目をゆっくりと開けてにやりと口の端をあげるヒノエ
「ヒノエ君!?」
「や、望美vv飲み物、持ってきてくれたのか?」
そう言うと壁に背を預けたまま、驚いている望美を抱き寄せるヒノエ。
「ちょ、ちょっとヒノエ君!!起きてるなら起きてるって言ってよ!!」
そう言うとぎゅーと抱きしめてくるヒノエの腕をぐいっと押しやる。
そんな強気の望美にヒノエは小さく笑い一層腕に力を込める。
「何で?せっかく姫神子様の本音がきけるかもしれないってのにわざわざ機会逃すかよ、この俺がv」
「・・・・・意地悪だね、ヒノエ君・・・」
「そうかい?でも、望美だって意地悪じゃん?」
「え〜!?何で?」
「無意識なんだ?なら、やっぱり意地悪だな、望美は」
そう言って今度は逆にヒノエから望美の頬に軽く口づける。
「もう!!一体なんなの!?意地悪なのはそうやっていつも私を困らせるヒノエ君のほうだよ」
「本当に分からないんだ?俺の妻になったのにまだまだ俺の事分からせないと駄目みたいだね?」
そう言うと壁から背を離し今度は望美の耳元に口を寄せる。
そして・・・・
「やっぱり俺が一番欲しい言葉はさ、お前の口からこぼれる
『愛してる』って言葉だろう?今度からよく覚えておいて?」
ヒノエはそう言ってゆっくりと望美を腕から離し、立ち上がって持ってきてもらった飲み物へと歩み寄る。
もちろん離し際にはばっちりと望美の真っ赤な顔を拝むのを忘れない。
「ちょっと、ヒノエ君〜!?」
「ふふふ・・・・可愛いねぇ〜望美はvねぇ、望美?『愛してる』って言ってみてよ」
「・・・・え?」
飲み物を口に持っていきつつさらりと言ってのけるヒノエ。
そしてその言葉にあっけに取られる望美だ。
「望美甘えていいって言ったろ?だから、言ってみてくれない?」
「で、でも・・・そんないきなり言われても・・・・」
望美はヒノエから目をそらし真っ赤な顔を背ける。
そんな望美を愛しく想い、飲み物を再度テーブルに置いて、今度は後ろから抱きしめる。
「なら、俺の誕生日、明日だからさ、そのプレゼントって事で・・・な?望美」
優しく、甘えたように囁くヒノエ。
望美も「誕生日プレゼント」などと言われたら断る事など出来ない。
ちらりと後ろを見てるとヒノエの期待に満ちた顔。
しかたなく深呼吸して言う覚悟を決める
「じゃ、じゃあ・・・一回だけだからね?」
「ああv」
「あの・・・えっと・・・」
そういうと望美はこれ以上無いくらいに真っ赤になりながらヒノエの耳元で囁く
ヒノエの求める言葉を、望むままに・・・・
愛しい想いを沢山詰めて、その一言を
了