【手が届くほどの距離こそが苦しみ】

「綺麗な夕焼け・・・・・でも、貴方の瞳の方が綺麗な紅」

そう言って少女はにっこりと微笑んだ。
優しさを形にしたような笑顔、それはとても静かで心に落ちてくる。
風が長い髪を巻き上げ少女に小さな悲鳴を上げさせる。
そんな些細な事が嬉しくてレギュンスは小さく笑う。

「何?」
「いや・・・・」

小高い丘から一面に見える街並みを夕日が沈むのを一緒に見ていた彼女はレギュンスの含み笑いに気づき、ぷぅっと頬を膨らませた。

「また!レギュンスっていつもそう・・・・何か思ったことがあってもあんまり素直に口に出さないんだから!そんなんじゃいつか損するんだからね?」

少女はそう言うと夕日に背を向けスタスタとレギュンスに近寄ってきた。

「ね?言って?」

少女はレギュンスの一歩手前で立ち止まり首を傾げる。
そういう仕草が愛しくて、抱きしめたくなる衝動に駆られる。
しかし、それは出来ない事、絶対にやっては行けない掟。
レギュンスは手を出したい衝動を無理やり底にねじ伏せて笑顔を作った。

「いや、本当に何でもない・・・・何でもないんだ。ただ、お前がそこにいてくれる事が嬉しかった・・・・・ただそれだけ」

少女の碧色の瞳を見てそう呟くと、少女もまたぼそりと呟いた。
「なんだ、そんな事?」

そう言ってまたくすくす笑い出す。

「それじゃぁ私だって・・・・・レギュンスがいてくれて幸せだわ、例え一緒になれなくても貴方と過ごす事ができるならそれだけで最高に幸せだもの」

幸せ・・・・
これが幸せという事なのだろう
レギュンスは目を閉じそっと傍らに立つ少女を感じた。
やさしい少女、本来なら関わることなどなかったはずの少女
何もかもが漆黒に包まれた自分とは正反対の子
しかし運命とは残酷なもので暗闇のどん底に立ち、闇そのものに包まれていたレギュンスに少女という一筋の光を与えた。
それが例え一生交わることが許されない相手だったとしても出会えた事はきっとレギュンスにとって幸運だったのだろう。
二人は出会って数日のうちにそれぞれが相手を思いやる心を芽生えさせた。
それと同時に絶対に交わることができない運命の歯車もまた、動き出した。
運命とは、本当に残酷なものだ・・・・・
光を与えておいて決して罪を許そうとはしない。
むしろその光こそが罪への罰だと言わんばかり・・・・
でも、それでも彼女と出会えたことは確かに幸福な事で、今のレギュンスにはなくてはならない事だった。
レギュンスがそう一人思考の中を漂っていると隣から「くしゅん」と小さなくしゃみがした。
いつの間にかとうに日は落ちてしまって風が冷たくなり始めていた。
人間ではない二人にとって風邪とかそういうものはないがやはり気分的には感じるところがある。

「セイカ・・・・・風が冷たくなってきた。中へ入ろう」

レギュンスがそう口にすると少女、セイカもこくりと頷く。
幸せな笑顔を口に乗せて。
そう、これは絶対に交わることが出来ない二人の話
ヴァンパイアの男レギュンスと、十字架の化身の少女セイカの話。
手をつなぐ事も出来ない恋人たちの愛
想うことさえ罪だというその歯車はいつか止まることが出えきるのだろうか

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